アスペルガー症候群に関する分科会では三つの基調講演がありました。
ケンブリッジ大学フィオナ・スコット博士による早期発見の症例、
英国シェフィールド大学ディグビー・タンタム教授が考える治療の可能性、
豪州クィーンズランドにあるグリフィス大学トニー・アトウッド教授による認知行動療法による怒りと不安の対策です。スコット博士の報告は、優秀な頭脳労働者として働いているアスペルガーの夫婦のあいだに生まれた一人の女の子を対象に、0歳から2歳までの行動を、いくつかの早期発見チェックリストに照らして観察した結果です。生後19ヶ月で行なった観察では、自閉症の可能性を示唆する点はあるものの、自閉症とは確定できませんでした。生後26ヶ月での検査では自閉症の条件を満たしましたが、知能などの発達に遅れは無かったのでアスペルガーと診断されました。0歳の時点で収録したヴィデオでは大人と目線の合う頻度が正常範囲であり、この時期の目線は診断の手がかりになりませんでした。
タンタム教授の論文は、症状の進行を三つの段階に整理したものです。1. 顔の表情など、非言語的手段でのコミュニケーションを行なう機能が弱い。2. その結果、家族や他者との関わりによって社会性を身につける機会が少ない。3. コミュニケーションの作法を学習できないため、対人関係の困難に遭うと言った形に整理できます。逆に言えば、早期に適切な教育を行なうことや、周囲の理解によって、第3段階を回避できるはずです。又、タンタム教授は第1段階の部分を生来の特徴であると考えており、生物医学的な方法には懐疑的です。
アトウッド教授の報告は非常に長く、ここではとても紹介し切れませんが、漫画を使った社交作法の教材など、沢山の手法をまとめた道具箱のようです。アスペルガー症の子どもたちが直面する困難を解決する手段を道具に喩えているわけです。怒りや不安の度合いを温度計に喩え、これらが上昇して沸点に達しないよう注意することや、具体的なリラックス法をいくつか用意することも大切だと述べています。