2005年10月23日

ワクチンと自閉症の関係を否定する講演

10月11日にワシントンDCで開催された米国小児医学会 (AAP) の年次大会で行なわれたウォルター・オレンスタイン博士の講演を伝える記事がいくつかのネット新聞に載りました。

登録しなくても閲覧できる頁から内容を簡単に紹介します。医療関係の情報を紹介しているネット新聞に載った記事です。

記事の冒頭では、水銀の入っているワクチンやMMRワクチンを自閉症や自己免疫疾患と結びつける科学的な証拠が皆無だと言っています (there is no scientific evidence linking thimerosal-containing vaccines or the mumps-measles-rubella (MMR) vaccine with autism or autoimmune disorders)。

もう少し読み進めると、その様な科学的証拠は少ないと言っています (little if any of the evidence linking childhood vaccinations to autism or other conditions stands up to scientific scrutiny)。

記者による要約が前者、実際の講演に近いのは後者なのかもしれません。

オレンスタイン博士の講演によると、ワクチンと自閉症の関連性を否定する根拠として以下の点が挙げられるそうです:

チメロサールと水銀を結びつける証拠の一部は、ワクチンに入っていた水銀の量とカリフォルニアなどで報告されている自閉症の増加だが、この種の報告は、診断基準の変化や発見率の増加によって偏りが生じやすい。

政府機関とハーヴァードの研究者が行なった調査では、自閉症と水銀中毒の共通点は僅か。

水銀中毒を起こすのはメチル水銀で、ワクチン由来のエチル水銀は半減期が短く、中毒との関連が少ない。

ワクチンから水銀を除去したスウェーデンとデンマークでは、関連性を裏付ける変化の報告が皆無。

関連性ありとする論文はいずれも、関連性が見られなかった総人口調査と比べて精度も規模も劣っている。

MMRワクチンで自閉症が増えたという証拠は無い。

IOMの調査委員会も因果関係を拒否する方が好ましいという結論。

新生児の体液や免疫機能はワクチンを受ける上で充分。

ワクチンの純度も高くなり、アレルギーを起こすような物質は格段に少なくなった。

ワクチンと自閉症の関係を調べた研究は充分にあり、今後は別の方面に資金を使うべき。

以下、オレンスタイン博士が挙げているデータについて、上記の記事では触れていない部分まで立ち入って解説します。

カリフォルニアでの報告は、DSM4の基準に基づき、それも狭い意味での自閉症に該当するといん診断が専門医によって出された数に限定して、定期的に報告されてきたものです。診断基準が広がったことは影響していないはずです。ただし、発見率が上がった可能性はあります。

政府機関とハーヴァードの先生がたが行なった調査は、自閉症と水銀中毒それぞれについて過去のさまざまな論文を振り返り、水銀中毒の典型的な症状と自閉症には共通点が少ないと主張したものです。この記事は、自閉症と水銀中毒に見られる90以上の共通点を挙げたサリー・バーナードさんたちの論文に対する反論の試みです。特徴は、大人の劇症型水銀中毒の症状に絞っていることです。こういう比較をすれば、胎児性水俣病と大人の劇症型との共通点も少ないです。その一方で、胎児性水俣病の子どもたちは頭が小さいのに対し、自閉症児の頭が大きめである点を指摘しているのは興味ぶかいです。又、水銀中毒では運動能力に支障をきたすことが多いのに対して、自閉症でそういう報告は見あたらないとも言っています。



勿論、胎児期の水銀による中毒と、乳児期に注射されたエチル水銀による中毒と、大人の劇症型水銀中毒で症状が違ってくるのは自然なことです。水俣病でも、総合的に見れば水銀中毒であることは確実なのに、いくつかの典型的症状がないせいで患者として認定されなかった人たちが存在します。

デンマークやスウェーデンでワクチンから水銀を無くしたあと、自閉症の発症率が一定のままであれば、無関係と主張する根拠となり得ます。上記の記事だけ読むとそういう印象を受けてしまいますが、実際には増加しました。その時期に、診断基準の変更や、院外患者の登録も始めています。最終的に、デンマークやスウェーデンにおける発症率は日本・米国・英国などに比べて遙かに少ない状況にとどまりました。



IOMでの調査については海外自閉症情報でも詳しく紹介しました。現実に存在する自閉症児の水銀蓄積や免疫機能に関する臨床的な調査については資金がほとんど交付されず、大規模かつ精密な研究が行なわれてこなかったのは事実です。



頭囲に関しては、自閉症児のばあい出生時には小さめで、あとから大きくなる傾向にあることが米国の調査で報告されました。



エチル水銀について、メチル水銀より速く血中濃度が低下することは報告され、脳内の総水銀量も少ないことが報道されました。実際の論文を読むと、エチル水銀の方が脳内の無機水銀を増やすことになるという発見も記載されています。脳内に溜まって神経症状を引き起こすのは無機水銀であり、そういう意味ではエチル水銀の方が脳に影響しやすいはずですが、この点は報道されませんでした。



MMRワクチンについては、機会をあらためてお伝えします。








posted by iRyota at 09:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 重金属 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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