米国における自閉症の悲しい物語のなかで最も悲しい一章であることを述べた上で、いくつか気がついた点をカービーさんは述べています。死因については死後解剖の結果を聞かないと分からないし、EDTAのキレーションで死亡した可能性を現時点で否定はしませんが、それでも不可解な点があるようです。それは、水銀中毒を対象にしたキレーションでEDTAが使われた例を初めて聞いたこと、自閉症児を対象にした例でキレート剤を直接血管に注入する方法も初めて聞いたこと、過去にはキレーションによる死亡例も聞いたことがないことです。ルポルタージュを書くために膨大な資料に目を通し、何百人もの関係者に聴き取り取材をした結果としてです。
たしかに、自閉症児の親たちのあいだで評判になってきた方法は、DMSAやアルファリポ酸の経口投与だったり、DMPSの経皮投与でした。
そして、カービーさんが最も気にしているのは、IOMの2001年答申で慎重かつ精力的なキレーションの臨床研究が奨励されていたこと、にもかかわらず資金は交付されなかったこと、そして精密なキレーションの研究が行なわれないまま、2004年答申では、総人口調査の結果のみに基づいて、ワクチンと自閉症の因果関係を否定する結論が出され、その後の研究も奨励されなくなったことです。
そのあいだもキレーションを行なう医師と親たちは増えていきました。ただし、わらをもすがる思いでキレーションに手を出したのではありません。さまざまな検査をして子どもたちが水銀中毒であることを確かめた上でキレーションを実施してきたと言います。
もし2001年から資金が交付されてキレーションの研究が行なわれていればどうなったでしょう。効果がないとか、益より害の方が大きいと証明されていれば、無理してキレーションを始める親も医師も増えてこなかったでしょう。今回事故の起きてしまった医師も、キレーションはしなかったかもしれません。
もし効果が証明され、危険を最小限に抑える方法が分かっていれば、沢山の自閉症児とその家族がその恩恵を受けていたかもしれません。
キレーションの是非について調査もせずに4年間を費やしたことを米国は恥じるべきだとカービーさんは言います。