2005年09月29日

自閉症の時代: カナーの症例第1号

自閉症の謎を探るため、自閉症研究の原点であるカナーやアスペルガーの報告を調べ、これまで光が当たらなかったアーミッシュの自閉症、そして、米国で賛否両論が起きている水銀論争について調べてきたUPIのダン・オムテッドさんは、カナーの症例第1号として記載されていたドナルド・Tさんがまだ米国で健在であることをつきとめました。そして、このドナルドさんが意外な人生を歩んできたこともつきとめました。12歳のときに若年性関節リウマチという病気のため命が危ない状態となり、そのために受けたある治療がきっかけで、自閉症から回復したようなのです。

8月に入ってからの連載は、自閉症の大流行に関する議論からでした。昔は極めて稀だった自閉症児が今では166人に一人という決して珍しくない存在になったことをめぐる賛否両論です。もともと自閉症の専門家だった先生方は、診断基準が広がったことと発見率が上がったことをその理由として挙げることが多いです。それでは、カナーの時代にもそれと同じ数の自閉症児が発見されずにどこかで生活していたのでしょうか?

そんなはずはないと主張する親の一人がペンドラ・ペタンギルズさんです。突然の退行、風変わりな行動、激しい自傷などを抱え、沢山の親たちがそれを医者にも相談せず、疑問を持たずにひっそりと生活しており、沢山の隠れた自閉症児の存在に医学や発達の専門家が気づかなかったという説明は不自然だと主張します。



それに対して沢山の反対意見も紹介されました。自分がアスペルガー症であることを知らずに、苦労しながら生きてきた人たちは意外に多いようです。重度の遅れを伴うタイプでも見過ごされた例があるだろうと主張する人もいます。ただし、その根拠は示されていません。



8日発表の記事では、前日のテレビ対談もふまえ、子どもたち6人に1人が何らかの神経学的な問題を抱えているというCDCのデータも紹介されました。

自閉症を発見したカナーは、名も無い村のお医者さんではなく、医学の名門ジョンズホプキンス大学の教授、小児精神医学の第1人者として知られていた人物です。南米や南アフリカからの患者も診ていました。そのカナーをして、1938年まで全く診たことの無かった珍しいタイプの子どもたちとして43年に報告されたのが自閉症児11人でした。その後の15年間でカナーが診た自閉症児は150人です。欧州のハンス・アスペルガーが発見した例はもっと少なく、10年間で4人で、率としては3万6500例に1例という珍しさです。



一方、カナーが発見するずっと前から自閉症は存在していたと主張する専門家もいます。サヴァン症候群の研究で知られるD・A・トレファート博士です。根拠として挙げられているのは1887年に発表されたラングドン・ダウンによるサヴァンの症例報告です。ダウン症の命名者として有名な医学者L・ダウンですが、ここで話題にしているのはダウン症の報告ではありません。

サヴァンというのは、総合的なIQが低くても、限られた分野で非凡な才能を発揮する山下清のような天才のことです。そこに記述されているサヴァンの人たちの症状は自閉症に良く似ており、しかも早発型と後発型の2種類がありました。



UPIの取材班は、症例の第1号として報告されたドナルドさんの所在をつきとめました。ドナルドさんと話すことはできませんでしたが、弁護士をしているご兄弟のかたに会ってくれました。そのかたの話によると、ドナルドさんは12歳のときに若年性関節リウマチという免疫系の病気にかかり、発熱と関節痛に苦しんだそうです。そして、このリウマチの治療法として当時おこなわれていた金塩の投与を何ヶ月か行ない、その結果、リウマチと一緒に自閉症からも回復してしまいました。

その後のドナルドさんは大学へ進み、大学の社交サークルにも参加し、銀行に就職し、町の名士からなるキワニス・クラブの会員にもなりました。綺麗な庭付きの持ち家に住み、自動車を運転し、週何度かゴルフをし、趣味は一人旅、海外旅行です。最近もイタリアからスペインへ行ってきたそうです。ただし、恋愛や結婚には興味がないらしく、今でも独身です。

カナーのいたジョンズホプキンス大学から、追跡調査の問い合わせは今でも10年に1度の割合で来るそうです。ただし、カナー報告の中でドナルドさんの経過が良好だったことやリウマチのことにも触れていますが、金塩については触れていません。ドナルドさんの経過が良かったのは、子どものいない夫婦に預けて農場で生活させたせいだろうとカナーは述べているそうです。



この例と、これまで自閉症児の親たちが権威ある専門家の多くからどういう扱いを受けてきたかをオムステッドさんは比較します。自閉症の専門家として知られる先生方のほとんどが薦めない生物医学的な方法を試し、それで劇的な効果があったと主張しても本気にされない親たちのことです。もし本当に症状が軽減されていても、それは並行して行なっていた教育的な方法の効果だろうとも親たちは言われるそうです。過去には、そもそも親たちの冷たい態度が子どもを自閉症にしていたとさえ言われていました。



金塩、正確には金チオリンゴ酸ナトリウムの注射で、リウマチの症状と一緒に自閉症の症状も劇的に軽減されたというのは、免疫系の問題と自閉症の関連性を示唆する逸話です。死後解剖した自閉症児や自閉症者の脳から免疫系物質が異常に多く見つかったという報告もあります。

精神科で扱うような症状への対処として金が使われることは昔からあったし、この種の金属が神経症状に対して効果的だという報告もあります。ただし、充分に証明されたわけではありません。



金は元素の周期表で79番目、水銀は80番目、お互いに親和性が高いです。そのためローマ時代から水銀は金鉱で使われてきました。水銀で汚染された水を浄化する方法として金を使う研究も進行中です。もしかしたら、金チオリンゴ酸ナトリウムの注射によってドナルドさんは水銀を排出できたのかもしれません。

読者からの投稿では、息子さんがアスペルガー症で、娘さんが若年性関節リウマチだという親のかたもいました。



ケンタッキー大学化学科のボイド・ヘイリー教授 (Ph.D) によると、金は水銀との相互作用によって、水銀の毒性を弱めるそうです。水銀との親和性が最も高いのも金で、体内でも水銀が入り込むのと同じ場所に入ってくるそうです。

ただし、ドナルドさんの例だけでは何も証明したことにはならないし、金塩投与の危険性もあります。EDTAキレーション中に死亡事故が起きたばかりです。



ジンジャー・テイラーさんは、ジョンズホプキンスの大学院精神科で修士号を取得し、家族療法士をしていました。今は二人のお子さんが自閉症スペクトラムです。今回の記事を読み、カナーに対して怒りを禁じ得ないそうです。カナーがかつて教えていた大学で、薬物乱用者の追跡調査などをしていたジンジャーさんの経験をふまえ、こういう重要な事件を報告しなかったとしたら重大問題だと言います。勿論、ベッテルハイムのように親たちを苦しめつづけた学者に比べればカナーはずっとましですが、こういう例をきちんと検証していれば、自閉症と金属や免疫作用の関係は、とっくの昔に解明されていただろうと主張します。



この連載で採り上げられたジンジャーさんの怒りの文章は、ご本人のウェブログでも読めます。

posted by iRyota at 07:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 重金属 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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