DAN! (Defeat Autism Now!) は、リムランド先生の主催する研究会として、リムランド先生の人選による専門家を集めて議論させ、自閉症の生物医学的な側面に光を当ててきました。この運動も90年代のうちは素晴らしかったと思います。特に自閉症と消化器方面を通して、子供たちの困難を軽減できる方法を普及させた功績は大きいです。
ただし、2000年以降、キレーションや消化酵素に関して、親たちの意見を軽んじるようになり、迷走している印象が僕たちにはあります。特に、DAN!の水銀排出プロトコルは失敗だったと思っています。
乳児用の予防接種に入っていた水銀の量が予想外に多いと分かり、アマルガム水銀中毒を想定してアンディ・カトラーさんが開発したキレーションの方法をエイミー・ホームズ博士が自閉症児たちに実施して劇的な成果が上がり、親たちのあいだでキレーションが注目された2000年、リムランド先生も調査を始めました。米国でキレーションを実施している医師は主に代替医学系の人たちですが、どういう方法のキレーションが最も効果的で副作用も少ないかについては百家争鳴でした。そこで、リムランド先生は、自閉症児を対象にしたキレーションの標準的な方法をDAN!で話し合って決めようと考えました。そこで期待できそうな専門家として選ばれたのは、アンディさんでもホームズ博士でもなく、ジェイムズ・レイドラー博士でした。
オレゴンの大学で助教授として麻酔学を教えていたレイドラー医学博士は二人のお子さんが自閉性症候群です。医学界で主流派の先生方と同じように、自閉症を受け入れて教育的な介入に励もうと最初は考えていました。
奥様も医学博士ですが、あきらめきれずにDAN!の集会に出席し、勉強してきたGFCFダイエットを一人で始めました。ジェイムズ博士は懐疑的でしたが、やってみて効果が見られなければあきらめるだろうと、反対しませんでした。ところが予想外に効果があったので、夫婦で取り組むことにしました。このあたりの経過はGPL主催の講演会の原稿として公開されています。
http://www.greatplainslaboratory.com/conference/Laidler.html
もともと水銀にも関心があったというジェイムズ博士はキレーションにも興味を持ち、アンディさんの3・4時間おき投与は親のストレスが大きすぎると反対しました。鉛中毒の臨床データに基づいてDMSAの8時間おき投与を提案し、リムランド先生 (Ph. D.) の呼びかけたDAN!の合意書を起草しました。8時間おきで危険が大きく、投与量も多いので、アンディさんはこれに合意しませんでした。
2001年に発表されたDAN!の水銀排出プロトコルは親たちから注目され、一部には劇的に改善した子もいましたが、全体としては期待はずれでした。署名した専門家のほとんどは、この方法の実施をやめてしまいました。現在、本家であるリムランド先生の公開頁からもダウンロードできなくなり、全く別の頁で公開されています。
http://www.whats-going-on.net/DAN.html
ジェイムズ博士のお子さんたちも、キレーションでは全く症状の改善が見られませんでした。あるとき、旅行中、お子さんの一人がグルテン入りのお菓子を食べても退行しなかったので、レイドラー家ではダイエットをやめました。ダイエットもキレーションもインチキだと考えるようになり、否定的な意見を公開するようになりました。
博士は、水銀説やキレーションを否定する立場の医師として、『ニューヨーク・タイムズ』にも登場しました。
DMSAの8時間おき投与で体組織の水銀は減ったのかも知れません。それでペプチドを分解する酵素が体内で生産されるようになり、グルテン・カゼイン除去が不要になった可能性はあります。それでもDAN!のキレーションで脳の水銀は排出されず、神経症状に劇的な改善は見られなかったのだと思います。
リムランド先生はこのプロトコルを再検討し、2005年の2月14日に改訂版を発表しました。2001年版の合意書に署名していたジム・レイドラー医学博士は勿論、エイミー・ホームズ医学博士とジェフ・ブラッドストリート医学博士の名前は、14日の時点で載っていません。本当の意味でキレーションの専門家と言える人物が含まれているかどうか分かりません。
内容は、一つの標準的な方法を示すのではなく、DMSA、DMPS、TTFDなど、いくつかの方法を示す形に変わりました。投与方法も8時間おきの大量投与、皮膚にぬる方法などです。
個人的な印象として、急性の鉛中毒を想定したような過激な方法だと感じます。副作用の起きる確率はパーセントで示されています。
リムランド先生の知名度もあるせいか、自閉症児のキレーションに興味を持った親たちは、自分たちで詳しく勉強するより医者にやってもらいたいと考え、DAN!に引き寄せられることが、今でも多いです。消化器方面などでDAN!から学べることは沢山ありますが、水銀関係について僕たちは心配しています。