IOMの内部に予防接種の安全性を検討する委員会が組織され、2001年から2004年にかけて何度か公開の会議や発表を行なっています。予防接種と自閉症に関する会議と発表もありました。
2001年4月には、MMR新三種混合ワクチンと自閉症に関する中間報告が発表されました。この時点では、総人口レヴェルにおいてMMRワクチンが自閉症を増加させるとは考えられないが、子どもたちの一部でこのワクチンが自閉症と関係している可能性までは否定できず、さらなる研究が必要という結論でした。(リンクはPDFです。)
2001年10月には、いくつかのワクチンに殺菌剤として使われているチメロサールに含まれている水銀と自閉症に関する中間報告が発表されました。現行の予防接種に関して、できるかぎりチメロサールを含まないワクチンを使うことや、将来にわたってチメロサールを使わないワクチンの開発製造と使用を薦めること、水銀と神経発達の遅れに関して研究を奨励することなどの勧告が出されました。この報告の核心部分をまとめると、以下のようになります。
1. 予防接種の水銀によって神経の発達に遅れが生じるという仮説は証明されていないが、生物学的に見て矛盾は無い。
2. 現時点での証拠だけでは、この仮説を認めるにも拒否するにも不充分である。
念のために原文も引用しておきます。重要語句は太字にしてみました。
The committee concludes that although the hypothesis that exposure to thimerosal-containing vaccines could be associated with neurodevelopmental disorders is not established and rests on indirect and incomplete information, primarily from analogues with methylmercury and levels of maximum mercury exposure from vaccines given in children, the hypothesis is biologically plausible.
The committee also concludes that the evidence is inadequate to either accept or reject a causal relationship between exposure to thimerosal from vaccines and the neurodevelopmental disorders of autism, ADHD, and speech or language delay.
リンクはPDFです。http://www.iom.edu/view.asp?id=21593
水銀と自閉症の関係を肯定したい立場の人たちは、この発表の "biologically plausible" [生物学的に見て矛盾は無い] という箇所を強調して報道しました。
否定したい立場の人たちは、証拠が不充分という部分を強調しました。権威ある科学雑誌として知られる英国の The Lancet 誌には "Report finds no link between thimerosal and neurodevelopmental disorders" [関連性なし] という見出しで、このIOM発表を紹介する記事が載りました (vol. 358, issue 9288, 6 October 2001, p. 1163)。
この記事は、実験や調査の報告をまとめ、審査を通った論文として掲載されたわけではありません。現地調査や面接取材に基づくジャーナリズムと言えるほどの記事でもないと思います。米国や英国で水銀と自閉症の関係を否定する立場の論陣を張っている先生がたでも、根拠としてこの記事を挙げている例は聞いたことがありません。
『ランセット』誌に載った記事の見出しだけを見て、この記事や2001年のIOM報告が水銀と自閉症の関係を否定しているものと思いこんでいるかたが今でも日本には存在するようです。勿論、これらの記事は水銀と自閉症の関係を否定していません。
近いうちに2004年の最終報告も紹介します。