そのことを報じた海外のネット新聞の記事をもとに前回はお知らせしましたが、その後、本元になる The Lancet 誌の記事も手に入ったので読んでみました。今回の記事は審査を通って受理され、掲載予定の段階です。(何らかの理由で掲載が取り消しになる可能性もあるのでしょうか。) The Lancet 誌のネット版では "In Press" [印刷中] という但し書きつきで公開されています。要約は誰でも閲覧できます。本文は、お金を払うか、ScienceDirect社と契約している研究所や大学のネットワークを通さないと閲覧できません。
記事の中身は、あらたな調査や実験に基づく論文ではなく、過去に発表された様々な論文に目を通して分かったことをまとめた review です。
記事の主旨は、6人に一人が自閉症・ADHDなど何らかの形で神経の発達に混乱を起こしている状況、大流行とも言える状況の背後に、さまざまな重金属や化学物質が関与しているのではという主張で、大筋は新聞報道と同じです。診断基準に該当するほどではない範囲で影響を受けている子もかなりいそうだと述べています。
本文を読んで分かるのは、臨床的な神経毒性が確認されている物質の一つとして挙げられている水銀が、まえに紹介した報道では単に水銀 (mercury) と表現されていたのに対して、本文ではメチル水銀に限定されていることです。根拠として挙げられている資料は、水俣病やイラクで起きた水銀汚染を調査した報告で、ほとんどは古い物です。(単に発表された年代が古いだけで、それを覆すような新発見がなされたわけではありません。)
チメロサール (予防接種の保存剤) に使われてきたエチル水銀の神経毒性については、現在までの時点で記録されていないと簡単に述べられています。(今後の調査で報告される可能性は否定していません。) 根拠として注に示してあるのはデンマークでの調査論文です。要するに、ワクチンの水銀と自閉症との関係は現時点で認められないが、自閉症が水銀中毒である可能性を認めていると解釈することもできます。遺伝的な素因も考えられると言っています。
以下に示すのは要約へのリンクです。正式掲載になった時点でURLが変わる可能性もあるそうです。
P. Grandjean and P. J. Landrigan. "Developmental neurotoxicity of industrial chemicals."