鉛、水銀、砒素などの中毒で体内にストレスが生じると、尿に含まれるポルフィリンという物質が増えます。ですから、尿のポルフィリンを調べることが、重金属中毒の有無を発見する手がかりになります。
調査が行なわれたのはパリの診療所です。269人の子どもから尿を採取し、ポルフィリンの濃度を調べてみたところ、自閉症やてんかんのある子どもたちで、コプロポルフィリンなど何種類かのポルフィリン濃度が異常に高い傾向にあるという結果が出ました。そして、異常値の出た子どもたちにキレーションを行なったところ、コプロポルフィリン濃度が低下しました。
対象になった269人のうち106人は厳密な意味での自閉症、63人がPDD-NOS [広汎性の発達遅延が見られる非定型の自閉症スペクトラム]、9人がてんかんを伴う自閉症、11人がアスペルガー症候群、29人が多動、12人が脳性麻痺で、ほかにアレルギー、注意欠陥、てんかん、レット症候群の子どもたち、そして定型発達の子どもたちも何人か含まれています。
正常値に関しては、スイスで採取された107人の子どもたちの尿を調べた結果との比較も行なわれました。性別による違いや、年齢による違いも考慮に入れてあります。
結果は、自閉症児、PDD-NOS、てんかんを伴う自閉症児の集団で、コプロポリフィリン濃度に強い相関が見られました。ただし、てんかんを伴う自閉症に関しては、人数が少ないので、統計学的な信頼性は不充分です。
てんかんとレット症候群の集団はコプロポルフィリン濃度が自閉症児よりさらに高かったのですが、これも人数が少ないので統計学的な信頼性は不充分です。(レットの子どもたちは染色体の特徴も確認されています。)
アスペルガーの子どもたちは、正常範囲でした。
アレルギー、注意欠陥、脳性麻痺、PDD-NOS、運動能力の遅れがある集団では、コプロポルフィリン濃度が正常範囲よりやや高めでした。
ただし、コプロポルフィリンは重金属中毒以外に、遺伝的な理由で増えることもあります。そこで、重金属からの影響が少ない種類のポルフィリンであるウロポルフィリンの濃度も調べました。そして、自閉症とてんかんを伴う自閉症の集団で、ウロポルフィリンの濃度は、統計的に有意という言えるほど高くはありませんでした。ほかにも様々な種類のポルフィリン濃度を調べましたが、自閉症と、てんかんを伴う自閉症の集団では、重金属中毒によって増えるポルフィリンの濃度と重金属に影響されないポルフィリンの濃度に明確な差がありました。
さらに、自閉症と、てんかんを伴う自閉症の集団に含まれる11人がキレーションを行ないました。DMSAの8時間おき大量投与です。これを3日間と休養を11日間の組み合わせを5ラウンド行ない、そのあとの尿検査では、キレーションをしなかった集団のコプロポルフィリン濃度がわずかに上昇したのに比べて、キレーションをした集団のコプロポルフィリン濃度は有意に低下しました。DMSAで排出できるのは鉛と水銀です。
ただし、キレーションによって自閉症やてんかんの症状が軽減されたかどうかまでは確認できませんでした。もともと自閉症の症状には個人差がありますから、集団と集団を明確な基準で比較するのは難しいと論文の著者たちは考えているようです。
この調査でポルフィリンの異常が見られた子どもたちは、鉛か水銀の中毒である確率が非常に高いと言えます。ただし、この調査に参加した子どもたちの親は、子どもたちが重金属中毒であるかもしれないと考えて診療所を訪れたり検査に同意した親たちのようですから、母集団が偏っている可能性はあります。それでも、フランスで自閉症と診断された子どもの中に重金属中毒の子どもが沢山いると考える根拠にはなります。ただし、重金属の汚染源について、この論文では触れていません。
R. Nataf, C. Skorupka, L. Amet, etc. "Porphyrinuria in childhood autistic disorder: Implications for environmental toxicity."
この論文の要約は無料で公開されています。
今回は全文に目を通した上で内容を紹介しましたが、全文閲覧は有料です。
iRyotaの感想: キレーションによって症状や発作の軽減を確認できなかったのは、DMSAの投与方法が8時間おきの大量投与だったためかもしれません。又、この論文では重金属がどこから入ってきたのかについては問わない立場をとっています。予防接種かもしれないし、大気中の水銀や鉛かもしれないし、魚の水銀かもしれないという立場でしょうか。
大変興味深く、読ませていただきました。
自閉症やてんかん、その他の症状について、『重金属中毒』であることを裏付ける調査が進み、実際の場面で治療に役立っていってほしいと思いました。
近い未来の住環境や食物の汚染を減らすこと、医療面ではチメロサールフリーの予防接種や重金属排出の治療・・・いろいろな障がいや症状の原因が『重金属中毒によるもの』と認識されたなら、全世界・各方面で取り組んで行けることは沢山あると思います。
農薬や化学物質・環境ホルモン・食品添加物は世間でも取り上げられ、避けたいと思う消費者も多くなってきたとは思いますが、同じように脳の神経をやられてしまう『重金属』がどうして自閉症やてんかんなどで認識されず、小手先の治療だけに留まったり、時として「非難の対象」になってしまうのか?!と深い疑問です。
巷の『デトックス』ブームだけで、終わらせてしまっては残念でなりません。
日本の医学界が、先駆けになるのは無理だとしても、アメリカやヨーロッパ、どこででもいいから今回のような調査や研究が進み、実際の場面で役立つ日が来てほしいものです!
「DMSAの8時間大量投与」で、症状や発作の軽減を確認できなかったのだとしたら、これもまた残念なことで、「重金属排出自体の有効性」を裏付ける大切な部分の立証は、まだまだ時間が必要なのか・・・と肩を落としてしまいました。
せっかくこういった調査が行われるのであれば、重金属排出が安全に正しく行われ、成果をあげてほしいものです。
今回の調査では、キレーションによって尿中ポルフィリンの濃度が正常値に近づくことは確認されました。つまり、重金属による体へのストレスがキレーションで軽減されることを示すデータが発表されたとは言えます。
ポルフィリンの検査で重金属中毒の有無を確かめる手がかりが得られるとアンディさんは1999年から言っていました。自閉症児を対象にこの検査を行なう意義があることを、僕たちは2004年ぐらいから分かっていました。今回やっと、そのことが学術的に確認されたわけです。1歩前進とは言えます。
検査自体は日本でもできます。希望を捨てず、自分たちに何ができるか考えていきましょう。