知能の発達に著しい遅れがあると考えられていたハンナさんがFCによって筆談をするようになった例が冒頭で紹介されていることは既に申し上げたとおりです。コンピュータで文章を書けるようになったハンナさんは予想外に高い知能を持っていることが分かり、今では高校レベルの生物学を学んだりしているそうです。ただし、FCは "controversial" な、つまり賛否両論のある方法であることも記事は認めています。
そのあとは、自閉症研究における近年の成果を要領よくまとめています。カナー報告から始まり、冷たい母親のせいという誤解、昔は非常に珍しい存在だったのに対して最近では166人に一人という率にまで増え、環境因子も否定できないこと、色々なサブタイプがあり、遺伝を含めて原因も様々であるらしいこと、そして、脳について発見された特徴などに触れています。3月に発表されたチメロサールの免疫毒性に関する研究にも触れており、水銀との因果関係は否定していません。ただし、水銀も様々な環境因子の一つに過ぎないし、遺伝的な素因も色々あるだろうという研究者の言葉を引用しています。早発型、後発型、消化器症状を伴うタイプ、免疫異常やてんかんを伴うタイプ、母親の血液検査で予想できるタイプと、発症を防ぐ可能性など、これからの自閉症研究が多方面に分かれて行きそうな傾向がうかがえます。
脳については、乳児期に前頭葉が急に大きくなること、特に白質が多く、炎症を伴っていること、間脳が小さく、脳内のある場所から別の場所への連絡が難しいこと、amygdala [扁桃体] が大きいため不安を感じやすいこと、海馬が非常に大きく記憶力が優れていること、小脳に白質が過剰で運動神経の制御が難しいことなど、図解入りで分かりやすく説明してあります。脳全体をつなぐ遠距離回線が不充分で、地域的な回線が過剰にありますが、これが自閉症の原因なのか、それとも結果なのかは、まだ分からないそうです。頭が急激に大きくなる傾向は女の子の方が強いそうです。
こういった研究と、自閉症者自身の著作などを照らし合わせて分かってきたこともあります。たとえば、儀式的な行動を繰り返すのは、自閉症の感覚特性によるものです。その一方で、他者への共感が乏しいのは感覚や認知の結果によるもので、適切な教育によって克服できる可能性もあるそうです。
Claudia Wallis. "Inside the Autistic Mind" Time, Asian edn. 29 May 2006. Pp. 34-40.
http://www.time.com/time/archive/preview/0,10987,1191843,00.html
41頁以降は、別の見出しで、教育的介入についての記事が続きます。