そのときの研究では自閉症児の血液を調べ、亜鉛の量に比べて銅の量が高い子が多かったことと、そうではなかった子は亜鉛のサプリメントを飲んでいたことから、メタロチオネインが不足しているのではと推論していました。ただし、その時点ではMT自体を直接的に調べることはできませんでした。
又、自閉症児の多くで自己免疫疾患など、免疫系の異常が発見されており、その原因として、水銀に容疑がかけられて来ました。そのばあいにも、MTや、MTに対する抗体に異常が起きる可能性も考えられました。
その後、新しい検査技術が開発され、何種類かあるMTの一部と、MTに対する抗体を実際に調べることができるようになりました。
自閉症の例ではありませんが、重金属が原因で起きたアトピー性皮膚炎の患者で、MTに対する抗体が発見されたという報告もありました。今回の研究は、ユタ州立大学のヴィジェンドラ・シング教授 (Ph.D) と学生のジェフ・ハンソンさんが、全身にくまなく存在するMT1とMT2、そしてMTに対する抗体を調べました。ただし、脳内だけに存在するMT3は、まだ調べることができません。
被験者は、薬物や補助食品を全く摂取していないという条件で集められ、DSM4の診断基準で自閉症に該当する6歳前後の子どもたち62人と、定型発達で7歳前後の子どもたち60人の血清を比較しました。チメロサール (水銀化合物) の入ったワクチンを規定通り全て接種し、さらにMMRワクチンを接種したことも条件にしました。ただし、予防接種以外の経路で水銀が入った可能性のある子どもたちは除外されました。
結果は、二つの集団で、MT1もMT2も、その抗体も統計学的に有意な差が無いというものでした。このデータをふまえ、自閉症児に見られる自己免疫疾患が水銀によって引き起こされた可能性は低いとシング博士たちは言っています。
Singh, Vijendra K. & Hanson, Jeff (2005) "Assessment of metallothionein and antibodies to metallothionein in normal and autistic children having exposure to vaccine-derived thimerosal." Pediatric Allergy and Immunology 論文要旨
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今回の調査は、水銀による自己免疫疾患とメタロチオネイン異常が自閉症に関係するかどうかを調べたものですが、これだけで自閉症と水銀中毒の関連性を100パーセント否定できるわけでありません。いずれにしても、せまい意味で自閉症の診断基準に該当する子どもたちのメタロチオネインに関して異常は発見できませんでした。広汎性やアスペルガーなど、広い意味での自閉症スペクトラムに該当する子どもたちに関しても調査はされていないようです。