目次には要約も載っています。"Does thimerosal cause autism? The press (mostly) says no; the facts say maybe. Daniel Schulman takes stock of this emotionally and scientifically difficult story." [チメロサールは自閉症の原因か? (大体の)報道機関は違うと言うが、事実をを見れば可能性はある。感情と科学が複雑にからむ厄介ないきさつをダニエル・シュルマンが考察する] と簡潔にまとめられています。
本文の方は、2004年のIOM発表から始まり、ほぼ時間軸にそって展開されます。
チメロサールと自閉症の関連性を拒否するIOM発表を米国各紙が積極的に報道し、論争に終止符かと思われたところ、2004年にはデヴィッド・カービーさんの著書 Evidence of Harm で再燃し、陰謀説を唱えるロバート・ケネディ・ジュニアさんの記事が発表されます。
これに対して、もともと因果関係を否定している権威ある医学者の中には、自閉症水銀中毒説を支持している人たちのことを "junk scientists and charlatans" [インチキ科学者とか詐欺師] と呼んで非難する人もあり、これも報道されました。
CJRのシュルマンさんによると、どちら側の主張にもそれなりの根拠はあるが、決定的とは言えないようです。
CDCが密かに行なった初期の調査では関連性が見られ、それを秘密の会議で検討し、最終的には否定でも肯定でもない、さらなる調査が必要という結果に終わったと、内部資料や発表された論文を見る限りは思われます。
ケネディさんの記事では、IOMの委員長を務めたマリー・マコーミック博士が最初からチメロサールを安全だと主張したかった様に伝えていますが、実際に議事録を読むと、CDCがIOMに対してそう望んでいたと言っているにすぎないそうです。少なくともこの資料だけでは、CDCやIOMがデータを改ざんしたと非難するには不充分です。
2005年6月に発表された『ニューヨーク・タイムズ』の記事では、関連性を否定する科学者と関連性を信じる親たちという図式にまとめられていました。関連性がありそうという立場のガイアー博士やボイド・ヘイリー教授に関しては、その研究の中身については触れずに、宗教的な人物であるような記述で片づけています。たしかにCDC、IOM、WHO、米国小児医学会などの権威ある団体がこぞって関連性を否定しているわけですが、関係がありそうという立場で研究しているコロンビア大学、ノースイースタン大学、アーカンソー大学の科学者たちは完全に無視されました。コロンビア大の疫学科からはNYタイムズに抗議の手紙が送られたそうですが、新聞には載りませんでした。
今回の記事でシュルマンさんが強調しているのは、多くの新聞記者がこの論争に対して恐れをなしていることです。シュルマンさんが何人もの記者たちに問い合わせた上での判断では、この論争を扱うことで記者生命が終わってしまうかもしれないと考えている報道関係者が沢山いるようです。
そういう中で積極的に自閉症と水銀について採り上げている数少ない新聞記者の一人として、UPIのダン・オムステッドさんを挙げています。ただし、かつて大手の通信社だったUPIですが、現在この通信社のオーナーをしているのは韓国の宗教団体と『ワシントン・タイムズ』社です。一般新聞でオムステッドさんの連載を印刷したのは『ワシントン・タイムズ』だけだそうです。
UPIは非常に有名な通信社なので、オムステッドさんの記事も沢山の新聞に載ったのだろうと海外自閉症情報では判断していましたが、これは間違いだったようです。
オムステッドさんがこの論争を採り上げる気になったのは、過去に薬害事件を調べた経験があるからだそうです。その経験が無ければ政府発表をそのまま信じていたろうと言っています。
『ロサンジェルス・タイムズ』のマイロン・レヴィンさんもこの論争を積極的に採り上げており、ワクチンの会社からは抗議を受けているそうです。信頼性の低い主張を真面目に扱いすぎるトーンが問題だと言われたのですが、具体的にどこが間違っているか、その会社は述べていないそうです。
ミネソタ州のクレイグ・ウェストーヴァさんも水銀自閉症説に耳を傾けるべきという立場で記事を書いており、8月に起きたキレーション中の死亡事故では強い非難を受けましたが、ウェストーヴァさんは自分で調べて判断したことを、覚悟の上で書いているそうです。
いずれにしても、水銀と自閉症に関してはもっと研究が必要で、積極的に研究意欲を燃やしている科学者が複数存在するのだから、新聞記者はこれをもっと採り上げて行くべきだとシュルマンさんはしめくくっています。